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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2012.10.19
 ほっとたうん☆VOL.94
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グダニスクの港町には5日間滞在した。まちの素晴らしさに起因するが、旧市街中心部の二つ星ホテルがあまりにも居心地がよかったからということもある。僕はここで正午の教会の鐘を聴くまでは、諸々の原稿を少しだけ進めて過ごしていた。旅の中で、午前中だけ仕事。これもなかなかいいものだ。

『新宿力』で創造する、やすらぎとにぎわいのまち

2012年10月発行
新連載●旅する建築家・鈴木喜一の
まちと建築を再生する
ポーランド便り 

2012年8月末、東京のうだるように暑い夏を抜け出して、ポーランドのワルシャワにやってきた。まちに吹く風はすっかり秋。街路樹にはナナカマドに似た赤い実が色づきはじめる季節である。僕は旧市街を中心に歩き始める。ワルシャワは第二次世界大戦の市街戦でナチス・ドイツ軍に徹底的に破壊された。広場に面する歴史博物館でその壊滅状態の写真を見たのだが、ひどいものだった。それをワルシャワ市民は丹念に、しかもまっさきに再生していった。現在のワルシャワ旧市街はとても魅力的なのだが、実は戦後に復興されたものなのである。戦前の緻密な風景画や写真・図面・絵葉書等を基礎資料にして破壊される前とまるっきり同じようにつくりあげたのだ。
その執拗な仕事ぶりには実際、驚かざるをえなかった。建物の全体的な意匠はむろん石積みの形からコーナーストーンの位置、壁の割れ目、それに看板や家々の紋章にいたるまで忠実に復元している。なぜ彼らはそこまでやったのか。まちを元に戻すことは彼らのアイデンティティを固く保持することだったのではないか。かつてと同じように復元するのは手間ひまかかることではあるが、彼らの世界をあらためてディフェンスすることだった。これを期にモダンデザインを展開しよう、とは誰も考えなかった。
ワルシャワに四日間滞在した後、僕はバルト海に面する港町グダニスクを訪れた。ここは同様に、戦火にまみれ、まちが壊滅したのだが、これもまた見事に復元しているのである。旧市街の規模はワルシャワのほぼ五倍。僕は運河沿いを毎日丹念に歩き、そして夕暮れ時には決まって無心に絵筆を走らせていた。
翻って、日本の都市の様相を見ると、壊しては建て、また壊しては建て、というスクラップアンドビルドをいまだに繰り返している。どこかほっとする町並みや裏通りもいまや危うい。人通りも増え、新築ビルの建設が相次ぐ。活気があるのは確かにたのもしい、だが、あまりにも性急に様変わりするのはまちの文脈を壊すことにならないだろうか、と思いつつ僕はポーランドの旧市街を歩いていた。

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