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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2010.02.23
 旅と建築、そしてスケッチ◎04~◎10
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初老の男(Ronciglion/ITALY-1981)

問●そうでしょうね。7歳くらいの旅になりますからね。その時は、まだ建築家になろうとも、スケッチをしようという発想もなかった?
04●【各地を遍歴する労をいとわない人だけに】
それはそうですよ。
20歳を過ぎた頃だったかな?ブルーノ・ゼヴィの『空間としての建築』という本を読んだのですが、その冒頭に「どんな辺境であっても、各地を遍歴する労をいとわない人だけに建築展の門戸が開かれている」と書いてあった。要するに、建築は美術館や書物の中で体験することができない。建築が立地しているその場所を訪ね、そこで直に触れることが大切だと。その一文を発見して、旅と建築は切っても切れない関係にあるんだと思いました。つまり建築と旅がつながる。さらに1981年6月、さきほど言ったように、カプラローラでスケッチとも合体するわけです。

05●【じわーっと出力されるもの】
僕は住宅設計を生業にしているでしょう。旅の中で、人間がその場所で生きて、生活している姿を見るのは大切なことなんです。人間の原風景を静かに見つめていればいつか自分の体の中にそれが澱のように溜まってくる。そこからじわーっと出力されるもの、表現されるものが自分のものなのではないかというふうに思って旅をしているんですよ。

問●鈴木さんは、どんなスタイルで旅のスケッチをしているのでしょう。また、スケッチの効用はどんなところにあるのですか?
06●【一日をやわらかく封じ込める】 
旅をしていてスケッチをしない日があると、僕の場合何かちょっと寂しいんですね。まちを訪ねても、まちと友達になったような気がしない。まず、まちを歩く。僕なりの一番いいスケッチポイントを探しながら……。景色のよい場所を描くだけでなく、例えば人とのコミュニケーションがあった場所も描くんです。一枚の絵を描くということによって、旅の一日をやわらかく封じ込めるという行為です。一時間半から二時間、気持よく絵を描く。すると、まちや人とダイレクトに繋がるんです。旅から戻ってその絵を再び見ると、旅の記憶がふつふつと蘇る。さらにその絵はワインのように発酵しているから不思議です。
スケッチの効用ですか。それは、心の清浄化作用でしょう。僕たちは、ある意味、世俗にまみれた日常が片方にありますね。それをちょっと忘れて旅に出る。ところが、なかなか日常を引きずっているものですよね。ただ絵を描いている時間は無心になるんですよ。虚心坦懐と言ったらいいんですかね。あれこれ何も考えない。すーっと自分の体内がきれいになっていく感覚がありますね。

旅と建築、そしてスケッチ◎01◎02◎03
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問●虚心坦懐ですか。ところで、旅とは関係なく絵を描かれる方にアドバイスを。
07●【絵筆を握る瞬間から】
絵を描ける状態に体も精神も持ってゆくということが大切なんじゃないでしょうか。静物でもいい、人物でもいい、あるいは身近なところを散歩して絵を描こうとする。そして、絵筆を握る瞬間というのがありますね。虚心坦懐の旅はそこから始まっているという言い方もできるかな。日常を旅化するといいかもしれませんね。

問●なるほど。絵を描いている時は無の旅だと。最近、絵手紙も流行っていて、草とか花とか自分のペットとか描く人が多くなったようですね。
08●鈴木【元気だよ。寒いよ。風が吹いているよ】
絵をメインにして、一言「元気だよ。寒いよ。風が吹いているよ」というような言葉を添えた絵手紙もいいですよね。

問●そうですよね。もらったら嬉しいですしね。
09●【絵を描く時】
嬉しいですよね。それに絵を描く時は、あんまり力まない方がいいかな。歌でも口ずさみながらね、すーっと絵の世界に入っていく。でもそうとばかりは言えないかな。極寒の場所では、下っ腹に力を入れて「よーし、描くぞ」という覚悟を決めて描く時もある。

問●国内外を問わずスケッチツアーがあるそうですね。
10●【スケッチはオリンピックの競技?】
そうなんですよ。みんなでスケッチツアーに行くとスケッチが何だかオリンピックの競技みたいになっちゃって面白いですよ。一人で旅する時は、気楽に一日一枚とか二枚程度描いていますが、みなさんと行くと、その夜の講評会がある。「どんな絵が描けた?」と言うと、「これもこれもこれも、そしてこれも描けたのよ」という具合です。その日に描いたスケッチを並べて懇親会をしますから、エスカレートするんでしょうね。もう大変な競技になっちゃうんですよ。それはそれでとても楽しい。スケッチを広げてその土地のお酒を飲みながら「こんな収穫があったよ」とみんなで談笑する楽しみ。これを僕は「スケッチ三昧の旅」と言っています。
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