
アユミギャラリー出版部/2002年/A4版36頁
本体価格700円+税
【伊藤家住宅所見】
木造、平屋建、一〇五、九〇三平方メートル
伊藤家住宅は静岡県清水市上清水に所在している。東海道筋からわずかに離れ、江尻から久能山に向かう街道の裏手にあたる。
家人の記録によれば、昭和一三年から一四年にかけての普請であったらしい。建立当時の上清水はあたり一面茶畑だったらしく、伊藤家は典型的な郊外の和風住宅としてつくられた。およそ五年後、清水市は昭和一九年一二月の東南海地震で大きな被害を受けた上、同時期からの度重なる空襲をで市の六五、七パーセントを焼失してしまった。しかし伊藤家のある上清水の一部と下清水にかけてはかろうじて被災を免れている。
伊藤家はその後も専用住宅として使われ続けてきたが、台所を土間から板張りに変えたほかは、改造箇所が極めて少なく、建立当時の質の高い仕事が温存されている。
屋根は清水産地瓦葺き(焼成温度600~900度)で柔らかい風情があり、外壁の下見板張や漆喰も比較的痛みが少ない。内部の造作を見れば、建具や欄間にも神代杉などが使われるなど、随所に緻密な仕事ぶりと本物の材料の良さがうかがえる。玄関回りの欅の式台や下足入れに多少歪みがみられるが、建物の価値を所有者が注意深く配慮して、新建材等による合理的な改造を回避してきたことが読み取れる。
戦前の清水市における良質な郊外和風住宅がほとんど存在しない現在、この伊藤家は貴重な住宅であると言える。詳細な調査と慎重な保存活用が検討される時期である。
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