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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2012.10.26
 人生は二日だけだから、歌って踊ってそれでよい
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東海林玉翠と田中芳の二人展

301●《最終講義》
始めます。学生ではない、生デの2年生ではない人、もう卒業した人を含めてどのくらいの人が来ているのかな。手をあげてみて。なるほど。
今日はいろんな人が来ているみたいなので、そのあたりも睨んで話をしたいと、そのくらいの余裕があればいいなと思っているんだけれど、まあ、どうなるか。
みなさんにこういう簡単な白いメモ用紙を渡しますので、氏名と、よかったら住所を書いて、これを出席代わりにします。実はこういう秘密兵器があります。[製本工房]といって、みなさんに書いてもらったものをこう束ねてここに挟むとすぐ一冊の本になってしまう。この本を僕は大切にしたいと思いますので、講義が終わったら今日の感想でもいいし、生デの学生は一年間のこの授業への簡単なメッセージを書いてくれたらうれしい。
最後なので、気の効いた話をしようと一週間考えていたんですけれど、ずっと日常の仕事がかたわらにあって、昨夜も夜9時過ぎまでそのことに体と頭を奪われいて、10時頃になってそろそろ講義の準備をやらねばと思って、写真をどうしようかなとか。最初、インドの総集編を見てもらおうと思ったんですが、ベトナムの写真をもう一度見たいという人が何人かいたのと、まだ見ていない人がいるのでアンコールにお応えして、ベトナムの写真になりました。
夜も遅く、アトリエでベトナムの写真を整理していたら、友人が遊びに来て、わりといい雑談になって、ここで話せるような体勢になったかなと思って、若干そのメモなども持ってここに来ました。その友人が今日ここに来ているから、紹介します。
「十川さん、ちょっと立ってくれますか。顔だけでいいよ」
「十川です」
「どうもありがとう」
十川正一さん。僕の旅の友人で、みなさん覚えているかどうかわかんないけれど、この授業で一回だけ彼の話をしたことがある。ネパールに行った直後の話で、カトマンズでカジノをやって、二人でポーカーをやって損した話をしたんですよね。その時のカードになぞらえて、人生はトランプのカードのように決まっているとか、決まっていないとか、いかさまもあるし、トリックもあるとか。そんなわけのわからない話をしたことがありますね、まあ、その時の相棒です。

302●グアテマラスケッチ紀行
グアテマラスケッチ紀行というこのプリント、ちょっと見てください。まだスケジュールが未定なんですけれど、来年の春か夏、グアテマラに行くぞ、っていうことなんです。僕は行くぞ、と力強く言い放って、行くことになる。それで、今、紹介した十川さんが、リーダーというか、コーディネートをやるわけなんです。
この講義で、いろんな話をしたんですが、僕の真意は、こういった学校の教室で話をしていてもあまり意味がないなあということがあって、とにかく君らを未知の世界へ放り出そう、《井戸のカエル》にならないように、いろんな世界の空気、異国の風を受けながら自分が何なのかをちゃんと見てほしいということが根底にあった。地球上で何が起こっているか、自分の目で見てほしい。卒業生の中でも、いまだにたくましく放浪を続けている人がいたり、自分のやりたいことがはっきりしてきて個性的に生きている人もいます。この講義は今日、終わりますけれど、これで単位がとれて近代文明論を卒業したということでなくて、近代文明論はこれが導入であって、これから文明の問題をどのように自分で考え、どう実践でとらえていくかが、みなさんのテーマになっていくだろうということなんです。
グアテマラスケッチ紀行の話でしたね。場所を中米のグアテマラにしてスケッチでもしながら、空気の入れ替えをしに行ってみようかというツアーの話で、もちろん生活デザイン学科の人が対象というのではなく、いろんな人が参加してくると思いますが、もしその気になったら、君らも一緒にね、僕と十川さんですから、まともなツアーなわけはないんで、ハチャメチャな感じになってくると思いますが、タイミングがよければ参加してみてください。

303●
103●白いバナキュラーな家々
グアテマラという場所をよく知らなかったんだけれど、最近、地球儀をよく見るようになって、それでグアテマラはメキシコの下なんですね、隣にはベリーズとかエルサルバドルとかコスタリカとかホンジュラスという国があるみたい。太平洋とカリブ海に面していて、ユカタン半島というメキシコの付け根のところにある国です。
君らの先輩の増保さん、でしたね、「先生、いいところだよ」と、その写真を見せてもらったことがあるんですが、道行く人の衣装はカラフルで、陽光はカラッとして明るそう、白いバナキュラー(風土的な、地方の、無名の)な家々、人間がとても良い感じ、それで刺激を受けて、ほんとうは夏行きたかったんだけれど、猛烈に暑いっていうんで、来春になるかな。

304●神様が何かやってくれるから
昨夜、十川さんと話をしたメモがあったんだけど、これを唐突に言ってもなあ……(笑)。今日は特別にメモを持って来てね、こんなことをしゃべればいいかなあって思っていたんだけれど、なんと書いてあるかそのまま言ってみよう。
・神様が何かやってくれるから
・お金のことでケンカしないほうがいい
・人生はいろいろやったほうがおもしろい
・人生の目的はいろんなことがわかること
・人生は二日だけだから、歌って踊ってそれでよい

305●《心のヴィザ》
なかなかいいメモでしょう。シャングリラ的発想の言葉と言ったらいいか。このキーワードを使って何か話をしようと思っていたんですが、もう言ってしまったから、これはこれでおしまい、と。
(沈黙)
今日ちょっと緊張しているんだなあ。いつも話しているのに途切れている。おかしいね。海野君、じゃあちょっと質問して。
「あの、先生が旅に行かれる時、何かインスパイアされて、なんかそういうアグレッシブな状態になって、いわゆるプラトニックな行動が自分の中でわきおこってくるのですか」
うーん、難しいなあ。ますます困ってしまった。質問からズレていると思いますが、旅の契機というのは、まあ直感です。無意識のうちにね、いろんな情報が入ってきて旅先を決めるんだろうけれど、今年は年末にはたぶん韓国に行くつもり。これは数えてみると今年で連続4年目になって、年末、暮れも押し迫っててブルートレインの『あさかぜ』という寝台特急に乗って、下関、プサン港という航路をたどっている。この旅には、動機といえるようなものはないんだけれど、ちょっとした、とてもささやかななものですが、僕は《心のヴィザ》というものを持っていてね、年に一度はプライベートで、たった一人で国境を越えることを自分自身に義務づけている。
どうしても日常にかまけていて、まあ一生懸命に日常の仕事をしていて、それで暮れも押し迫ってしまうんですね。今年はネパールとベトナムへ行ったんだけれど、プライベートではなかったので、隣の国に避難という形でヴィザを取りに行く。今年もたぶん、慶尚道あたりの港町をうろうろしてスケッチしながらやっているだろうと思います。
韓国も4年目になるとだいたいわかってきて、とても味のある、奥深いところなんです。港町を中心に歩いて、そこで市場に行ったり、お刺し身を食べたり、今年はお酒はそんなに飲めそうにないんだけれど、マッコリと言ったかな、韓国の焼酎みたいなお酒を飲みながら一人でやっているんだな。そんなことで自分はヴィザが切れた、という感覚を大切にしている。そんなヴィザを取りに行く。
そんな話を冗談のように言うので、「鈴木さんは日本人じゃなかったんですか」ってよく言われるんですよ。そうすると僕は、偽造の中国人の上海生まれの証明書を見せて「中国人です。リンムーです」って言うんですけど。(笑)
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