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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2012.10.11
 見たことのない懐かしい風景ー2
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【KIICHI SUZUKI☆Interview 】
《旅と日常》
――旅をしてスケッチをして、なおかつ平行して日常の設計業務が行われているんだよね。うまくいってるの?
●旅を始めた最初のころは、旅と実際につくる建築はやはり別のことだという印象があった。それが徐々に一体化しつつある。いや一体化したいということかな。旅をしている時も、日常の仕事をしている時も、自分が生きていることに変わりないものね。
旅の中ではどんどん対象を受容していくよね。その中で自分が鋭敏になったり、変化したり、解体していくわけなんだ。日常の仕事の中では、旅で無意識に受容したものをベースにして自分の世界が漠然とでも出せたらと思うんだ。ただ日常の仕事にも旅的なところがあっておもしろいんだよね。
――その旅的なところっていうのは?
●最近、わりに古い建物を直すというような仕事が多いんだけど、物理的な移動の旅ではなく、時間軸を通じて旅ができる。つまり旅というものが、風景とか人に出会っていく、あるいは自分というものに出会っていくという作業であるとすれば、古い建物と格闘しながら、その技術や痕跡を見ながら、こんなふうにやっていたんだとか、こんな思いで生きていたんだとか過去の人の動きがわかる。そのことで新しい自分にも出会える。
――なるほど、ヤモリの棲む家(1995)、横寺の家(1995)がそうだったね。じゃあ、新築としてつくる場合は旅的な感じにはならないのかな?
●そういう意味でいえば、旅立つことのできる建築をつくりたい。新築であっても長い時間軸を想定した建築だね。未来に向けてストックになるような建築がいいよね。中野の家(1988)なんかはだいぶ味がでてきたよ。
――あなたは、その土地土地の風土に根ざした様々な建築や集落に出会っているよね。とくに美しいと思った場所はどこ?
●貴州省の西江古鎮の集落にはるばるたどりついた時はオーッていう感じだったね。もう興奮しちゃうんですよ。カメラのシャッターがバシャバシャバシャ、いつのまにかスケッチブックを広げている。ビルマのマンダレーもそうだった。ニアス島のジャングルの中の楽園もそうだったなあ。
――それらの場所の素晴らしいところはいったいなんだろう?
●けっして快適ではないんだよね。ぼくたちからしたらものすごく不便な暮らしだよ。水だって川まで汲みにいく。井戸から汲みあげる。でも、ああ生きているなっていうことを感じる。助けあってやってるなということもわかる。労働と生産の一貫性が見える。割れたガラスの中から小学校の教室をのぞいたりすると子供たちのきれいな目にうたれる。やっぱりこれだよなって、ぼくは勇気づけられる。人が生まれたとか、死んだとか、そういうことも大切にする。しかも、それをごくあたりまえのこととしてとらえている。
集落の全体の形はとても自然的なものなんだ。そこではANONYMOUS(無名な)、VERNACULER(風土的)、SPONTANEOUS(自然発生的)、INDIGENOUS(土着的)、RULAL(田園的)といった言葉でたとえたいような風景が生き物のように呼吸していて、つくづく人が本当に生きている場所は、町も建築も道も生きていると感じる。 生活感覚や宗教、思考形式、労働形態そのすべてが自然と直結した世界。人間の心の中の本能と自然が反応している世界……。
――そのことが日常の仕事にどんな影響を与えているんだろう?
●ぼくが感じたこと、自然の深みに触れたこと、それをできるだけストレートに伝えたい、表現していきたいということがある。が、世の中の流れはそうでもないよね。どんどんケミカルで表面だけのつるつるの世界になっていく。生活感もなくなっているし、物質文明がすごい勢いで侵食している。どんどん世界が壊れていく。時代の趨勢で止めようがないところまできている。アジアを10年以上旅しているとそれがよくわかるよ。だからぼくはこれはまずいなと思っているわけ。正直に言えば、自分の無力さも感じるし、やりきれない葛藤も日常の中にはある。でもせっかくいいもの見せてもらったんだから、そういう正しいベクトルでできるだけのことをやっていきたいなって思う。
――大学でシャングリラの旅の話をしてるんだよね。学生たちに伝えたいことはどういうこと?
●これが近代文明論という大袈裟な講義のタイトルで、ちょっと気恥ずかしいんだよ。もう少しやさしいタイトルにしてくれないかなあと言っているだけど……。まあ地球規模で遊んでみようやと、ぼくが見た世界を写真で紹介しながらね。話すのあまり得意じゃないから写真と音楽を組み合わせたりして、けっこう苦労している。いや楽しんでるかな。
地球上にはいろんな現在が表出しているでしょ、だから自分で歩いてみるとおもしろいよということ、行ってみてはじめてわかることがあるよということ、不思議な空間があるよということ、世界は謎に包まれているよということ。実際に体験すること、接近すること、遭遇することの大切さというようなことかな。

《シャングリラ第二幕へ》
――どんな子供だったの?
●無口でいつもぼんやりしていた。それに気が弱くて怖がりだった。暗くなってからのお使いがとてもできなかった。
――信じられないね。最初の一人旅は?
●たしか小学校2年の夏休み。静岡の家から母方の実家、富士宮へと汽車2本とバスを乗り継いでの3時間の旅だった。当時の静岡駅は昔ながらの懐かしい駅、そこで母が心配そうに手をふって見送るシーンはしっかり覚えている。
汽車に乗ると、回りの乗客が心配して「ぼうや、いったいどこへ行くんだ」ってな感じで、みんなとても親切だった。乗り換えの富士駅に着いたら、その中のおじさんがわざわざ降りてくれて、ぼくを身延線の汽車まで乗せてくれたよ。身延線に乗ったら、また別の乗客たちがぼくを囲んで、お菓子をくれたり、事情を聞いてくれて「がんばれよ」と励ましてくれた。富士宮で降ろしてもらったら、またまた別の人があらわれて……。
その晩、ぼくは一人旅っていうのは不安で心細いけれど、いろんな人が出てきて、親切にしてくれて、ハプニングもあって、すごーくおもしろいんだなあと思った。そしてニヤニヤしながら地球上をあてもなく歩いている自分を夢心地で想像していた。あれがぼくの旅の原風景だろうね。
――いちばん長い旅は?
●パリに遊学していた時代だね。30歳を回る頃。395日間、パリを拠点にヨーロッパから北アフリカ、中近東を放浪していた。自分の旅の体質はたぶんあの時にできあがったのだと思う。スケッチがごく楽な気持ちでできるようになったのもこの旅のなかばの頃だった。
――ところで旅にトラブルはつきものだけど、最近パスポートとられちゃったんだってね?
●いやあ、みんなすごく喜んでくれてね。(笑い) いつもスイスイ旅をしてるとうらやましがられるでしょ。だからドジって良かったなって思ってる。去年の暮れ、タイ国境からマレーシアに行く途中、夜行バスでぐっすり眠りこんでしまったんだよね。日本人のパスポートはいい値段で売れるらしいんだな。
ーーその時の気分は?
●とりあえずあわてたよ。だってイミグレーションでパスポート出そうとしたらないんだから。トラベラーズチェックもとられちゃったし。クヤシカッタ。思いっ切り電信柱を蹴飛ばしたよ。でもまあ命があるんだし、お金も何カ所かに分散していたうちの一つだし、ああこれでぼくは無国籍人になったのか、このまま宙ぶらりんで旅を続けられるかなあとも思ったりした。異国で立ち往生するのも悪くない。
――まだまだ危険なことがたくさんあるでしょう?
●これは危険な状態だなってこととか、危ない人だなっていうのはわかるよ。知らんぷりしたり、寝たふりしたりしてやり過ごす。近寄らない。この間、スマトラの山中をいくバスに乗ったんだけど、すごくいい人やすがすがしい人もいるんだけれど、逆に悪そうな人もいる。だから状況に応じて気持ちを開いたり閉じたりすることが必要なんだよね。実際、そのバスの中で乗客の荷物がなくなってしまった。そのおばさんはとてもかわいそうだった。
いちばん悲しかったのは、大分昔のことだけど……、スケッチブックの入ったカバンをイタリアでとられた時だった。もちろんカバンの中のカメラなんかが欲しかったんだろうけど、ぼくにしてみればそれまで描いたスケッチがなくなっちゃった。涙は流さなかったけどずっと泣いていた。しばらく立ち直れなかったね。
――保険は入ってないの?
●保険は入ってないんだな。いつも必ず戻ってくるんだと思って出かけてるから。無事に何事もなく帰国したらお金をくれるという保険があったら入りたい。
――病気になったことは?
●高山病とか風邪を引いたりするぐらいかな。旅のさなかに入院したことは一度もない。でも、具合が悪くなるとすごく気弱になるタイプ。誰でもそうだよね。もっとも下痢はしょっちゅうしている。旅はトイレとの闘い……。

――第一幕終了ということで、シャングリラ第二幕はどんな感じに?
●シャングリラは身近にも存在すると思っているんだよね。第二幕では今の日本の危機的状況の中から、ささやかながらも大切なものを見いだしていきたい。今まで文明社会から遠ざかるような旅を続けてきて、文化の違いもある程度、体感できたと思っている。外に出ていく旅をやめるつもりは全くないんだけれど、足元もしっかり見たい。物理的な移動の旅だけではなく、じっとした旅、日常の旅、時間軸の旅もできるのではないかな。
――最後に、S作戦にキーワードがあるようだけれどSECRETなのかな?
●じゃあ、SPECIALということで。これは図で示してみよう。

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▲旅のキーワード(S作戦)
SHANGRI-LA
SELECT(極上の)
SPECIAL(特別な)
SMART(気の効いた)
STRANGE(奇妙な)
SINCERELY(心を込めて)
SCALE(スケール)
STORY(物語)
SUSPENCE(あやふやな)
SECRET(神秘、秘密)
SABOTAGE(反抗、破壊)
SANCTUARY(聖域)
SIMPLE(簡素)
SACRIFICE(犠牲、愛)
SPECTACLE(大がかり)
SAVAGE(野蛮な、粗暴な)
STILL(静かな)
SKETCH(スケッチ)

S作戦
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