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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2012.04.16
 アキさん
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アキさん、美味しい郷土料理をいつもありがとうございました。合掌。

【再録】
ふーらり美味まち建築紀行●02
会津田島針生

スケッチブックをバッグに入れて
ふーらり浅草から南会津に旅立った
懐かしい風景の中を歩き
歴史ある建物を見、囲炉裏端の郷土料理を食べながら
この土地の生活に耳を傾ける

●アキさん
南岳荘のアキさんは元気かなあ、と思いながらいつも過ごしていた。ご主人の訃報を大分前に聞いていたが、その後、元気に民宿をやっているのだろうか?
「美味まち建築紀行」が始まってからそう思うことがさらに強くなった。
なぜならアキさんは会津郷土料理の天才だからだ。美味・まち・建築とくれば、アキさん・南会津・南岳荘と僕の頭は一直線につながるのである。

●ふーらり出向くことにした  
浅草から東武鉄道で会津田島に向かう。殺伐とした都会の人工的な光景が徐々に穏やかな山並みに変わってゆく。ぼーっと田園を眺め続けながら、この20年間を静かに振り返る。僕はこの地で初めて民家復原の仕事をし、土地の生活を実見し、そのことで大いに学んだ。以後、折につけ会津田島に足を運んだ。民宿南岳荘を登録有形文化財にしようという話もその延長線上で生まれ、僕は南岳荘の囲炉裏端に魅せられていった。

●夜の会津田島に到着した
めざすは針生の南岳荘。駅前から最終便のバスに飛び乗ったが乗客は誰もいなかった。とっぷり暮れた闇夜を寂しく走るバス。運転手の背中が心なしか寂しそうだ。
宿に到着して、まず一風呂浴びる。囲炉裏端には美味しい料理が並んでいる。しんごろう*の香ばしい匂いもする。お酒を飲みながら久しぶりにアキさんの話に耳を傾けていると、なぜか懐かしい心持ちになってくつろいでしまう。早いものでご主人が亡くなってもう3年になるらしい。しばらくしてアキさんもお酒を飲み始めた。彼女は昭和30年に隣町の下郷から嫁入りしてきて50年になるという。光陰矢の如し。
アキさんは山歩きが好きで、この前ちょっと頑張りすぎて足が痛いんだよと笑っている。
最近は短歌を始めたらしく「これがなかなか難しいんだ」と言ったところで、座敷にコオロギがやってきた。そこですばやく僕が一首詠む。
  はるばると針生の里に来てみれば
  こおろぎ飛んだアキの夜かな
するとアキさんはちょっと喜んで、お酒の勢いもいくぶん増したように思える夜だった。

●七ヶ岳を歩く
翌日はアキさんが好きな七ヶ岳の山道を歩いて僕の最初の仕事である馬宿*に辿りつこうと考えた。「あの山道を歩くのはたいへんだよ」と言いながらおにぎりを作ってくれたアキさん。宿を去る前に彼女がそっと差し出した返歌を詠んでみる。
  友が来て秋の夜長を口実に
  ほんに美味なる(おいしい)酒くみかわす

しみじみした気分で山裾の林道をゆっくりと歩く。標高が高いせいなのか少し息が切れる。空気と風が透明で気持ちがよい。絶えず水の音。31560歩。通り過ぎた車は5時間でわずか一台。出会った生き物は鳥・蝶・バッタ・ヘビ・カエル・とかげたち……、人間の気配は全くなかった。
  笹ばかり七ヶ岳の林道を
  ひたすら歩いて古今に着く