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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2009.11.14
 24●砦
24●砦
ボンベイの娼館っていうのは猛烈に汚い。僕の感覚から言うと汚い。とてもそんな気にはならないんだけれど、さっき言ったように好奇心だけはある。ボンベイの娼館ってどうなってるんだろう、どんな人たちがどんな事情でやっているんだろう。興味がある。そんなことを抱えながら、風景として見たり、写真を撮ったりして、歩いている。で、男が誘ってくる。値段もちゃんと言ってくる。女はいらないから写真だけ撮りたいと、娼館の内部の写真を撮らせてくれと、見るだけでいいんだって、お金は払うからと。わかった、と男は言ってね、じゃあ、俺について来い。
僕たちはズカズカというか、刑事のように入って行く。娼館の中を。悪い性格。女の人がいて、君らぐらいの年令かな。よく見ると、やっぱりネパール系の女性が多い、とか、わかる。写真を撮って、暗いからフラッシュをたいたりするとすばやく逃げる。ちょっと僕、ひどいことしてるなって思う。と思いながら、気持ちはなんか興奮して、感動っていうんじゃないだね。感動で写真は撮るんだって、さっき言ったけれど、そういう状態とは違う。ちょっと、図に乗ってるって感じ。男は本気で、ここを撮れ、あそこを撮れ、とか言ってくれる。僕は、言われるままに、バチバチ撮っていた。
そしたらある女性が、無言でね、僕の方を、ピッ、と見た。美しい目で睨まれた。僕は電気に打たれた感じがして、カメラを持っている力がなくなった。まずい、って思ったね。体を買わないで、写真だけを撮ってるわけでしょ、どういうつもりだ、ということを言いたかったに違いない。何も彼女は言わなかったけれど、人間として崩れていないんですよ。男は、「どうしたんだ、お前」って言った。でも、もう足早に、なんにも言わないで、ただ逃げるようにボンベイの街を歩いているしかなかった。
娼婦っていう仕事……、娼婦の仕事であれ、何の仕事であれ、体を張った、自分の砦でちゃんと戦ってる、そういうスレスレのところで生きている。我々も、そろそろスレスレで生きていかなくちゃいけない時代だと思うけれど、自分を、スレスレに賭けた行為、というところで生きている、それをね、僕のような態度で安易に傍観するってことは、やっぱり許されないことだなと、その時、感じたんだ。
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