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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2009.06.06
 一水寮2009
20090531085459
20090531085501


決り切った時間ではないが平均すれば朝8時50分、僕はガラガラガラと勝手口の戸を引き、寝ぼけまなこで横寺の細い路地を歩きだす。俗にいう出勤である。
最近、東京の辺境地帯と呼ばれ始めている横寺町の路地に我が家は面している。元を糾せば我が家が面しているから辺境なのかもしれない。
歩きはじめてまず正面に見える景色は山田さん宅の庭の木々たちと下見板張りの二階屋である。この落ち着いたファースト・シーンを僕はかなり気にいっている。この庭の紅葉を間近に観察して左に折れる。これが知る人ぞ知るクランク状の細い路地、名づけて鍵型紅葉路地。僕はいつもストレッチ代りに両手を思いっきり二度、三度広げながらここを通っているのだが、その両手がちょうど両サイドの家の壁にぶつかる程度の狭さなのである。この狭さがなんとも密やかでいいのである。すれ違う人は一人あるかなしか。たまに角で人にぶつかりそうになったりすると、お互いに謝ったりしてほほ笑ましい。この狭い通りを抜けると斜向かいにもくれんの家がある。春先にはやさしい白い花を咲かせてくれる。このもくれんに僕はいつもうっとりしている。
ここを右に折れてやや広い通りを歩いていく。誰かとあいさつするのがちょっとした楽しみになっているからである。誰かとは鳶の百瀬さん家族か、魚浅さん一家か、ジャーナリストの伊藤一男さんか、本山菓子店の御主人さんのいずれかである。失礼だが誰でもいいのである。ただなんとなくニコッとあいさつできればそれでいいのである。
早稲田通りを横切る時は、運動がてらに小走りとなる。運動というにはあまりにも物足りない短い走りを止めて『踊る大捜査線』で有名になってしまった木の扉を開ける。みなさんおはよう。
この間およそ180歩、時間にして2分。これが僕の仕事場までのちょっとした旅である。「ずいぶん恵まれていますね」と言う声がどこからか聞こえてきそうだ。

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