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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2008.11.28
 03●斉斉哈爾 / 李永東の33時間
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李永東

●斉斉哈爾 / 李永東の33時間☆01
昼下がり、帰りのバスを待っている。
售票処(切符売り場)の石炭ストーブにあたらせてもらう。季節はずれの自然公園の窓口をあずかる村の娘たちは黙って編み物をしている。土間には葦が散乱している。おじいさんが二人、そして黙ってタバコを吸い続けている男が一人。
時間がとうに過ぎてもバスは来ない。娘たちは編む手を休めずに、たぶんバスが壊れたのだと平坦に言う。よくあることらしい。
「4時46分のハルピン行の火車票を買ってあるのだが……」とぼくが切符を見せると、それまで一言も話さなかった男が、腕時計を見てからやおら立ち上がり、何を思いついたのか外に電話をかけに行く。タクシーでも呼ぼうとしたのか。しかし、電話はつながらない。
男は近くの村まで歩いて行くからついて来い、と命令する。風貌と態度、それに人を射るような目が『ゴルゴ13』の東郷に似ている。李永東と名乗る。年令不詳の壮年。広い自然保護区の中の一本道を歩いて行く。空は晴れて陽がさしているが、やわなぼくは、顔も耳も真っ赤になってしまい、顔面麻痺状態。タオルを顔に巻いて、目だけを出して歩くことにする。底なしに冷たいが、人気のない厳しい自然の道を歩くのはなぜか気持ちが良い。
後方から車のエンジンの音がする。振り向くとトラックが走ってきた。大量の草を載せ、その上にも人が座っている。

●斉斉哈爾 / 李永東の33時☆02 
 東郷が、いや李永東が両手を広げ道の真ん中に立ちはだかる。まさか、と思ったが草の上に乗るらしい。トラックに満載された葦の上に寝転んでしがみつく。ここで受ける風は、さらに冷たい。……降ろしてくれ、東郷、と目で訴えても、李永東は素知らぬ顔をしている。
でこぼこ道の分岐点でようやくトラックと別れた。また黙って歩き続ける。ぼってりとかわいい、これぞ『大地の家』と言っていいような土の集落があり、ぼくは喜んで写真を撮ろうとするが、寒さのためかシャッターが動かない。牛やブタもいる。土の家には必ず太い煙突がある。部屋はオンドルになっているようだ。李永東からかなり遅れをとってしまった。彼は振り向かない。
扎龍村のある一軒の家に通される。清潔な家である。おばあさんと母と娘がいる。おばあさんが砂糖湯を入れてくれる。体が冷えきっているので、これはとてもありがたい。家族は、バスが来なければここに泊まればいいんだから、といってくれる。李永東はジュースとお菓子をどこからか買ってきてオンドルパン(温床)の上に無造作に置いた。白黒のテレビを見たりする。4時過ぎようやくバスが来た。もう外はすっかり暗くなっている。



 
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