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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2008.11.13
 悠はどこでも眠っていた
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寝起きのゆうくんが母親に背後から飛びつく。

悠はどこでも眠っていた●鈴木惇子

悠はどこでも眠れる子だった。
幼い頃は、よく父親の仕事で奥会津へ行った。夏に、秋に、春に。雪の積もる冬にも行った。そこでは、古い木造家屋の山村道場に泊まった。広い和室、ポットントイレ。11月にもなると、夜は布団の中にもぐりこまないと、寒くて寒くて、というような建物だったが、のんびりして、裏手の山の中にはちょっとした遊び場もあった。そんな古さ、不便さをなんとも思わずに、彼は元気に無邪気に楽しんでいた。そこから車で少し行ったところには、木賊(とくさ)温泉という、川原にある混浴の温泉があって、お風呂に入ったり、川に足をつけたりして、私と歩の3人で、自然の中の温泉を楽しんだ。
家の中でも小さい頃から大きくなるまで、自分の部屋で寝たことのほうが少ないのではないか、というぐらいだった。友達が来れば、屋根裏でゲームをしながら寝袋で寝るし、大きくなれば、リビングの床の上で、男の子何人かでよくゴロゴロ寝ていた。朝になると、一人が欠けていて、「あれ、住くんは?」と言うと「朝、バイトにでかけた」という具合に。彼にとっては、家で遊んでみんなでゴロゴロ寝るというのは、ほんとうに楽しいことであったようだ。厚い布団でもない、ほとんど板の間そのものの上という状態でも。
普段でも、父親の布団にもぐりこんだり、母親の布団にもぐったり……、大人になってもやっていた。さすがに大学生になると、気にして、わざわざ布団の反対に潜り込む。だから私は彼の大きな足を目の前にして寝ることになるのである。ちょっとでも触ると「気持ち悪い」とか言われるので、それなら潜り込んでこなければいいのに、と思いながら、私の方でも、「あっちへ行って」とは言わなかった。普通の家族関係から見たら、ヘエーっと驚かれたかもしれないけれど。
あの日も、夜、事務所でインターネットを使っていて、明け方、家に戻ってきて、私の布団の足元にもぐりこんで寝ていた。「帰ってくるよ」と言って出かけていったのに。なぜあの日に限って私は彼に「今日、帰ってくる?」なんて聞いてしまったのだろうか?