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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2008.01.01
 パオと蒙古相撲
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草原のおいしい空気をいっぱい吸って、モンゴル遊牧民の組立式移動住居、包(パオ)に起居し、満天の星を寝ながらに見る! というのが、ちょっとしたぼくの夢だった。
念願かなって、昨年八月、フフホト郊外のシラムレという村の観光用パオに泊まった。メンバーは、中国スケッチツアーの総勢二十人で、なんと、ぼくが団長なのである。(実は、途中で四角四面の添乗員とケンカして、友人建築家に団長の座をあけわたし、グループからリタイア、ただの人となる)
パオはパオでも、観光用ではちょっと物足りないなあ、とも思ったが、ここがツアーという大名旅行の泣き所、気ままなひとり旅で、パオ遊牧民の生活にもぐりこんでしまうという得意のパターンにはならない。
おまけに満月のせいか、草原は明るく、期待していた星の輝きがない。
ええい!パオから布団を草原に持ち出して、焚火をしながら久し振りの野宿としよう。地酒のコーリャン酒をガバガバ(というほどでもないが)、飲めや歌えの日本、内モンゴル、香港(ツーリスト)の国際交流会となってしまった。 では、昼間は何をしていたのかというと、モンゴルの草原で土地の精悍な青年と蒙古相撲をやったのだ。健闘している証拠写真を見てほしい。白熱のすえ、結局、草原にたたきつけられた。ぼくの必殺“右内掛け”で仕留められなかった時、もう勝てないと思った。余力が尽きるまでだと思った。試合終了後、その青年との礼儀正しい握手が心に残る。
ジャック・ロンドンのボクシング小説集に『試合』というのがあって、その中に《一切れのビフテキ》という好短編がある。若いチャンピオンにのぞむ老ボクサーの闘いが内面から描かれているのだが、その悲哀に近いものを感じてしまった。あの時、ぼくはその老いたトム・キングのように空腹ではなかったけれど……。
蒙古相撲の後、ぼくは草原ツアーをあきらめ、苦くてさわやかな敗戦の味をかみしめながら、一日中パオの中で放心していた。じつは誰にも話していなかったのだが、ぼくの体の筋肉はバラバラであった。

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