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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2007.07.25
 尾道ふーらり街角スケッチ→弓削島行き
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鈍行で海を見ながら尾道に向かった。一年ぶりの懐かしい尾道。水道を行き交う小舟を見ていると思わず飛び乗って水上でスケッチしてみたくなるのは僕の危うい性質であるが、ここは辛抱して「おのみち旅大学」の講師としての自覚を自らうながす。公会堂別館の四階では12名の受講生が待っていてくれた。
みんなで尾道のまちを歩いて、その場でスケッチをするという講座なのだが、その前にまずスライド上映。僕の最新の旅、ポーランドと中国安徽省のスケッチを大きな画面で映しながら、少々旅の話をした。原画も間近に見てもらったのだが、「これを見ただけでも今日は満足だわ」と言ってくれた人がいたのでうれしかった。
その後、全員でまちに繰りだして、それぞれのスケッチポイントを探す。僕は尾道水道を渡船で行ったり来たりする。ジューシーな梨を食べながら、しばし風に吹かれているのである。天気はすこぶる良い。
間もなくお昼になった。僕の足は去年入った「自由軒」に向かう。隣りの魚屋でおいしそうなタチウオの焼魚を持ち込んでビールとおでんを注文する。ここのおかみさんは僕のことをかすかに覚えていてくれた。なぜか? それは僕がカウンターでおでん鍋のスケッチをしていたからである。そう、スケッチをすると、人の記憶に残りやすいのである。もちろん自分の記憶にも残る。スケッチは双方をつなぐ原初的なメディアといえるかもしれない。この店は林芙美子とも縁のある「うずしお小路」に面している。創業は昭和29年でメニューも当時のままという渋い店である。
さてそろそろ本格的にスケッチをしなければ受講生に面目が立たない。
海岸通りに出る。毎年気になっていた泰平館という傾きかけた古い旅館をスケッチすることにした。この建物もそろそろ危ない、いま描いておかなければ、というのが主な動機である。秋の陽射しは結構強いが一心不乱に描きすすめる。約二時間。
描き終えてから旅館のスタンプをもらいにいった。おしゃれな三代目当主がいて建物の話をしてくれた。明治31年に創建された旅館だという。「もうしばらくしたらなんとかしなければね」ということだった。
「来年はまだありますか ?」「まだ大丈夫」
よし、来年の旅大学の時はここに泊まろう、と決意を固める。一泊素泊り3800円だとか。
講評会は尾道市役所の前庭で開かれた。それぞれ力作だ。みんな楽しい一日だったことがそのスケッチと表情にあらわれている。僕は一つ一つの作品にコメントをしながら、こうしたささやかなスケッチ講座がかれこれ7年も続いていることにある種の感慨をいだいていた。

講座を終えて僕たちは瀬戸内海に浮かぶ小さな島、弓削島に向かった。夕陽を追いかけるようにドライブする。そしてそのまま船に乗る。古い長屋門のある弓削島の集落に着いて少し歩いたらもうとっぷりと日が暮れてきた。砂浜に出てきれいな月を見ながらまたスケッチを始める。波の音がやわらかく時を刻んでいる。
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