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旅する建築家
鈴木喜一の

大地の家
2007.01.06
 出会いと別れ
tonari02.jpg
(画・陳月里)

忘れられない出会いというのがあって、忘れられない言葉というのがある。三年前の夏のことだ。台湾北部の港町淡水で、陳月里さんという画家に出会ったことを、ぼくは、かなり大切にしている。
淡水河の向こうに観音山が見える。夏の夕暮れの風景を追って、ぼくは海辺で気分よくスケッチブックに筆を走らせる。風も気持ちよく流れていた。いつしか子供たちが取り囲んで、絵の具をいたずらしている。
こんな場合、うるさい!とは、単純に言ってしまわない方がいい。きっといいことがあるから、とガマンガマン、黙々と描き続ける。観音山のふもとにある八里の村影が少しずつ夜の闇に沈んでいくのを見送りつつ、スケッチを切り上げて出来上がり!とする。スケッチの終わりを見とどけるように、うしろからたどたどしい日本語で話しかけてくる女性がいた。
「日本人ですか」
ぼくは、いくぶん緊張して懐かしい響きにふりかえる。
60歳は越えているだろうと思われる感じのいい女性だ。
「とてもいいスケッチ、ここ塗らないところ、いい」といってほめてくれる。
「心配ない、家においで、お茶を飲もう」
実は、ここから話しは一挙に盛り上がるのだが、とてもこの短い紙上では語れないのだ。とにかく、二日間にわたって異常に盛り上がり、忘れられない出会いとなってしまった。しかし、出会いがあれば、無情の別れがある。彼女の別れ際のかみしめるようなつぶやき、
「地球がぐるっと回ってめぐりあったんだから……」
という言葉を、ぼくは決して忘れない。
今回は、お正月にぼくの手元に届いた彼女の水彩画をここに紹介して、このページを淡水のアトリエに送り、とりあえず、彼女の目をぐるっと回してしまおう。ぼくが描いた場所と同じ場所で描いた絵(原画だぞ!)を送ってくれるなんて、愛があるなあ。
そろそろ、もう一度地球をぐるっと回してみなければ、と思うのであった。
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